
この記事の著者・監修者
きたむら歯科院長:北村 篤史
院長の北村篤史です。地域医療に貢献したいと思い、海外で身につけた歯科に関する高度な知識や技術で診療を行います。
インプラント治療は、まるで自分の歯のように噛める喜びを取り戻せる方法です。しかし、外科手術を伴う治療であることから、「失敗したらどうしよう」「将来的に問題が起きたら…」と不安になる方も少なくありません。
ここでは、インプラント治療を考えるうえで知っておきたい現実的なリスクとその対策について、解説します。
インプラントは、人工の歯根を顎の骨に埋め込む治療です。手術後、傷口に歯周病菌が侵入すると、周囲の歯ぐきに炎症が生じ、インプラント周囲炎という病気を引き起こす可能性があります。
これは、いわば「インプラントの歯周病」。進行すると顎の骨が溶け、インプラントがぐらついたり、最終的には除去しなければならないケースも。
特に、もともと歯周病がある方や、清掃状態が悪い方は注意が必要です。
・治療前に歯周病の有無を精査し、必要に応じて先に治療
・手術時は滅菌環境を徹底し、感染予防の抗生物質を処方
・術後も3ヶ月〜半年に一度の定期メンテナンスを推奨
感染はインプラント失敗の大きな要因のひとつですが、正しい管理により十分に防ぐことが可能です。
インプラント治療では、「土台」である骨がしっかりしていることが重要です。
骨の高さや厚みが不足していると、インプラントが初期に安定せず、骨としっかり結合しないリスクがあります。また、骨密度が低いと、インプラントが脱落したり、骨を突き破るようなトラブルも起こりえます。
・歯科用CTを使った三次元診断で、骨の量や神経の位置を立体的に把握
・骨が足りない場合は、GBR法(骨造成)やサイナスリフトで事前に増やす
「骨が足りないからインプラントはできない」とあきらめる必要はありません。
最新の技術で、治療可能なケースは増えています。
インプラント治療後、見た目の違和感を訴える方もいます。特に前歯では少しの歯ぐきの下がりや、被せ物の素材によって「他の歯と馴染まない」と感じることがあります。
歯ぐきが薄い場合、金属が透けて見えることもあり、これは審美性を重視する方にとって大きな問題です。
・術前に歯ぐきと骨の厚みを診断
・必要に応じて軟組織の増大処置や骨造成
・被せ物にはジルコニアやセラミックなどのメタルフリー素材を選択
見た目にこだわる方ほど、カウンセリングで「未来の見た目」までシミュレーションしておくことが大切です。
インプラントは、骨と「オッセオインテグレーション」と呼ばれる生体結合を起こして安定します。しかし、結合に失敗するとインプラントが定着せず、グラグラしたり、最悪の場合は抜け落ちてしまいます。
・骨質が軟らかい(骨粗鬆症など)
・手術中の過剰な熱や圧力による骨ダメージ
・術後の細菌感染
・骨密度を確認し、必要な場合は主治医と連携して改善
・ドリル使用時は注水冷却を徹底し、骨を保護
・術後も感染予防を重視
喫煙習慣がある方は治癒が遅れやすいため、治療前後の禁煙も重要な対策となります。
下顎には「下歯槽神経」、上顎には上顎洞や大きな血管があり、手術時にこれらを誤って傷つけると、しびれや出血など重大なトラブルにつながります。
・下唇や舌の知覚麻痺
・止まらない術後出血
・顎の違和感が数ヶ月続く
・全例でCT撮影を行い、神経・血管の位置を正確に把握
・ガイドシステムによる安全な埋入位置の設計
万が一、しびれ等の症状が出た場合でも、早期の対応により回復するケースが多くあります。
上顎の奥歯部分にインプラントを入れる際、上顎洞にインプラントが突き出してしまうと、副鼻腔炎を引き起こすリスクがあります。鼻づまり、頬の痛み、慢性副鼻腔炎につながることも。
・CTで骨の厚みと上顎洞の位置を詳細に把握
・骨が薄い場合はサイナスリフト(上顎洞底挙上術)を実施
・トラブル時は耳鼻科と連携して早期対応
インプラントの多くはチタン製で、金属アレルギーのリスクは非常に低いとされていますが、ゼロではありません。
心配な方はパッチテストの実施をおすすめします。
チタンに不安がある場合には、ジルコニア製インプラントの選択も可能です。
持病があるからといって、必ずしもインプラントができないわけではありません。
ただし、以下のような点には注意が必要です:
・糖尿病: 術後の治癒が遅れ、感染リスクが上昇
・高血圧・心疾患: 手術時の血圧上昇に注意
・骨粗鬆症: 顎の骨がもろく、薬剤の影響にも注意
当院では、主治医との連携により安全性を最優先にした治療計画を立てています。
インプラントは年齢制限のある治療ではありません。しかし、高齢になると以下のような問題が起こりやすくなります。
・骨密度の低下による結合不全
・免疫力・治癒力の低下
・セルフケア能力の低下 → インプラント周囲炎のリスク上昇
80代以上でも成功例は多くありますが、「無理なく続けられるケア体制」が何より大切です。
インプラントは入れて終わりではありません。
10年、20年と快適に使い続けるためには、術後のセルフケアと定期的なプロケアが欠かせません。
・抗生物質・鎮痛薬は必ず服用
・強いうがいや鼻かみはNG(血餅が剥がれてしまう)
・硬い物を噛まないよう注意
・飲酒・喫煙・激しい運動は控える
些細なトラブルでも、「おかしいな」と思ったらすぐ相談。
それがインプラントを長く保つ一番の近道です。
インプラント治療は一人ひとりの体調やお口の状態に合わせた丁寧な診査とアフターケアがあってこそ成功します。不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
院長の北村篤史です。地域医療に貢献したいと思い、海外で身につけた歯科に関する高度な知識や技術で診療を行います。